コラム「人と経営」
不易流行 ~不変の真理と変化~
1.老舗はどこに
老舗(しにせ)とは老う舗と書くが、老いは外観であって経営の内容ではない。何代にもわたる知恵が凝縮されている。精神が受け継がれていれば経営のやり方は変わってもいい。
例えば高度成長期、ホテルや旅館は団体客を迎え入れる為に、施設を大きくし、旅行代理店任せの営業で集客を行った。老舗旅館も大差はなかった。
そして、バブル期、会社経費での旅行客を狙った対応をしていた。
その後、団体客は減少し、地方の有名なホテルや旅館で廃業に追い込まれたところは多い。倒産したゴルフ場と同じように外資が入り再生に向けて、経営請負をする会社が出てきた。
2.経営再建請負人
長野に本社がある老舗旅館の三代目がその再建請負人。いくつかのホテルの再生を手掛けた。自身、3代目として老舗旅館を引き継ぎ、急激な変化を求め米国で学んだ経営手法を用い業績を回復、しかし社員が大量に退職。
頭を打った彼は、トップダウン型からフラットな組織へと転換、現場へと徹底的に権限委譲を行った。エンパワーメントだ。力を下に与えた。社員はイキイキと自発的な姿勢に変わり、強い企業へと変化を遂げた。
彼は、これを経営再建の現場でも使い、残った社員達を中心に再建計画を練り、実施に移していく。仲居さんやホテルのボーイさんの心に火がつかない限り立ち直ることは出来ない。顧客満足はここにかかっている。
3.現場に力を与える
この事例は、サービス業だからと言う声が聞こえてきそうだが、経営の本質は人であろう。人は経営資源ではなく資産、即ち財産である。
製造現場の組み立て作業の人達は、歯車のように決められた事を黙々とやる。手を動かしていればいいと。しかし、トヨタの改善活動は彼らも参加し日々、変更や改善を行っている。主体は現場なのだ。
商社や販売を中心とする企業は営業マンが現場の重要な役割を担う。顧客と接する彼らのやる気が鍵を握る。営業マンは売るマシーンではない。
老舗企業が生き残って行くには、精神や哲学などの智恵を残し、市場や顧客の変化に対応する。変えていくべきところは変える。その哲学を伝承するのも人、変化を起こすのも人であるという事を忘れないようにしたい。