コラム「人と経営」
忙しい時間と優しい時間 No.1
1.旧いモノに意味を持たせると売れる
コーヒーミルが百貨店で品薄になっている。某百貨店では2ヶ月先でないと商品が手に入らない。これは、あるドラマの中で度々登場するシーンによる。何で今更、コーヒーミルなのか興味深い事例だ。
iPodのように画期的な新製品で品切れなら理解できるが、オーソドックスな手で挽く木製タイプ。百貨店の洋食器売り場の片隅にひっそりと数種類、並んでいる代物である。
フジテレビで毎週木曜日放映中のドラマ「優しい時間」。その中で主人公が経営する喫茶店は、客にコーヒーミルを渡し、自分で挽かせる。それが視聴者に受けている。挽くことに意味付けをしている。
2.新しい価値を何で提供するのか
その喫茶店では、常連客がミルでコーヒー豆を挽きながらゆったりと時間が過ぎていく。
客が店と一体になって喫茶店という場が演出される。
そこには、忙しさと反対の時間が流れている。
主人公の回想シーンで、亡き妻が登場する「コーヒーミルをお客さんに挽かせるの」。
主人公は「それならコーヒーの料金を安くしないとな」妻は「反対よ。高くとるのよ」。
ミルを挽く楽しさ、顧客に新しい価値を提供することが付加価値を生む。
喫茶店業界のこの数年の変化は激しい。汚い、暗い、不味い店が無くなった。
シアトル系の小綺麗なコーヒーショップに入れ替わった。
確かにコーヒーが美味しくなり、ソファが有り、居心地は格段に良くなった。
3.商売を優先したチェーンでは優しい時間は共有できない
1983年、スターバックスコーヒーの創業者、シュルツ氏は出張でミラノに行き、そこで本場のエスプレッソバーに出会い感動をした。朝や夕に客がバーに立ち寄り、オーナーと客、客同士が会話を弾ませる。
翌年、シュルツ氏はそのバーにヒントを得て、コーヒーバーを実験的に開業した(現在のスターバックスコーヒーの原型)。
しかし、日本の店には店員と客の会話は殆どない。商売には必ずこだわりがある。こだわり以外は切り捨てる。エスプレッソバーのポリシーは捨てられた。
本当の温もりは、人と人の空間からにじみ出てくる。客が挽いたミルを受取り、そのコーヒーをマスターがドリップする。完成品が出てくるまでに時間がかかる。
優しい時間はそういったやりとりの中から生まれる。